徳冨蘆花とどんぐり2
2012 / 02 / 26 ( Sun )
徳冨蘆花は、全集や日記を読んでみたところ、
*どんぐり度が、非常に高い作家ということがわかりました。
私の作品を読んだことのある日本の作家の中では、
今のところ、日本では宮沢賢治と並ぶどんぐり度2トップといってもいいかもしれません。

どんぐり度(あくまで私の私的基準です)
・作品の中にどんぐりやどんぐり木がでてくる頻度の高さ、記述の幅広さ、深さ等々

徳冨蘆花の作品の中で、私のおすすめは「自然と人生」と「みみずのたはごと
そして、明治時代の大ベストセラーとして「不如帰(ほととぎす)
この3作品は岩波文庫になっています。
他に読みやすい作品は、「思出の記」などでしょうか。
(「思出の記」など他の作品は、蘆花全集か、種々の日本文学全集などでしか読めません)


徳冨蘆花について何回か書くことにします。
今日は、随筆集「みみずのたはごと」のなかから、
他のものとはすこし違って寓話風?に書かれている「水車問答」を紹介します。

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水車問答

田川の流れをひいて、小さな水車(すいしゃ)が廻って居る。
水車のほとりに、樫(かし)の木が一本立って居る。
白日(まひる)も夢見る村の一人の遊び人が、
ある日樫の木の下の草地に腰を下して、
水車の軋々(ぎいぎい)と廻るを見つゝ聞きつゝ、
例の睡るともなくさ寤(さ)むるともなく、此様な様な問答を聞いた。

軋(ぎい)と一声長く曳張(ひつぱ)るかと思えば、
水車が樫の木を呼びかけたのであった。

「おい樫君、樫君。君は年が年中其処(そこ)につくねんと立って居るが、
全体何をするのだい?
斯忙しい世の中にさ、本当に気が知れないぜ。
吾輩を見玉え。吾輩は君、君も見て居ようが、そりゃァ忙しいんだぜ。
吾輩は君、地球と同じに日夜(にちや)動いて居るんだぜ。
よしかね。
吾輩は十五秒(びょう)で一回転する。ソレ一時間に二百四十回転。
一昼夜に五千七百六十回転、
一年には勿驚約(おどろくなかれやく)二百十万○三千八百四十回転をやるんだ。
なんと、眼が廻るだろう。
君は吾輩が唯道楽に回転して居ると思うか。
戯談じゃない、全く骨が折れるぜ。
吾輩は決して無意味の活動をするんじゃない。
吾輩は人間の為に穀(こく)も搗(つ)くのだ。
粉(こな)も挽(ひ)く。
吾輩は昨年中に、エヽと、搗いた米がざっと五百何十石、餅米が百何十石、
大麦が二千何百石、小麦が何百石、
粟が・・・・・・稗(ひえ)が・・・・・・黍(きび)が・・・・・・
挽いた蕎麦粉(そばこ)が・・・・・・饂飩粉(うどんこ)が・・・・・・まだ大分あるが、
まあざっと一年の仕事が斯様(こん)なもんだ。
如何だね、自賛じゃないが、働きも此位やればまず一人前はたっぷりだね。
それにお隣に澄まして御出(おいで)での御前(ごぜん)は如何(どう)だ。
如何に無能か性分か知らぬが、君の不活動も驚くじゃないか。
朝から晩までさ、年が年中其処(そこ)にぬうと立ちぽかァんと立って居て、
而して一体お前は何をするんだい?
吾輩は決してその自ら誇るじゃないが、
君の為に此顔を赧(あこ)うせざるを得ないね。
おい、如何(どう)だ。
樫君(かしくん)。言分(いいぶん)があるなら、聞こうじゃないか」

云い終って、口角沫(こうかくまつ)を飛ばす様に、
水車は水沫(しぶき)を飛ばして、響も高々と軋々(ぎーいぎーい)と一廻り廻った。
其処に沈黙の五六秒がつゞいた。
かさかさかさかさ頭上に細い葉ずれの音がするかと思うと、
其れは樫君が口を開いたのであった。

「然(そう)つけつけ云わるゝと、俺(わし)は穴(あな)へでも入りたいが、
まあ聞いてくれ。
そりゃ此処に斯うして毎日君の活動を見て居ると、羨(うらや)ましくもなるし、
黙(だま)って立って居る俺は実以て済まぬと恥かしくもなるが、
此れが性分だ、造り主の仕置だから詮方(しかた)は無い。
それに君は俺が唯遊んで昼寝(ひるね)して暮らす様に云うたが、
俺にも万更仕事が無いでもない。
聞いてくれ。
俺の頭(あたま)の上には青空がある。
俺の頭は、日々夜々(にちにちやや)に此青空の方へ伸びて行く。
俺の足の下には大地(だいち)がある。
俺の爪先は、日々夜々に地心へと向うて入って行く。
俺の周囲(ぐるり)には空気と空間とがある。
俺は此周囲に向うて日々夜々に広がって行く。
俺の仕事は此だ。此が俺の仕事だ。成長が仕事なのだ。
俺の葉陰で夏の日に水車小屋の人達が涼(すず)んだり昼寝をしたり、
俺の根が君を動かす水の流れの岸をば崩れぬ様に固めたり、
俺のドングリを小供が嬉々と拾うたり、
其様な事は偶然の機縁で、仕事と云う俺の仕事ではない。
俺は今一人だが、俺の友達も其処此処(そこここ)に居る。
其一人は数年前に伐(き)られて、
今は荷車(にぐるま)になって甲州街道を東京の下肥のせて歩いて居る。
他の友達は、下駄(げた)の歯(は)になって、
泥濘(どろ)の路石ころ路を歩いて居る。
他の一人は鉋(かんな)の台になって、大工の手脂(てあぶら)に光って居る。
他の友達は薪(まき)になって、とうに灰になった。
ドブ板になったのもある。
また木目が馬鹿に綺麗だと云って、
茶室(ちゃしつ)の床柱(とこばしら)なンかになったのもある。
根こぎにされて、都の邸(やしき)の眼かくしにされたのもある。
お百姓衆の鍬(くわ)や鎌(かま)の柄(え)になったり、
空気タイヤの人力車の楫棒(かじぼう)になったり、
さまざまの目に遭うてさまざまの事をして居る。
失礼ながら君の心棒も、俺の先代が身のなる果だと君は知らないか。
俺は自分の運命を知らぬ。何れ如何(どう)にかなることであろう。
唯其時が来るまでは、俺は黙って成長するばかりだ。
君は折角眼ざましく活動し玉え。
俺は黙って成長する」

云い終って、一寸唾(つば)を吐(は)いたと思うと、
其(それ)はドングリが一つ鼻先(はなさき)に落ちたのであった。
夢見男は吾に復えった。
而(そう)して唯いつもの通り廻る水車と、
小春日に影も動かず眠った様な樫の木とを見た。
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蘆花が敬愛するトルストイも「イワンのばか」など民話を書いていますので
その影響でしょうか?

樫の木が擬人化されていますが、この時期にすでに日本で読まれていた外国の本では、
メーテルリンクの「青い鳥」に、樫の木が森の王として擬人化されてでてきます。
日本ではすこし後に、宮沢賢治が「かしわばやしの夜」の他、
いくつかの作品のなかでカシワの木を擬人化させています。

<おまけ>
日記を読むと、蘆花は、毎年秋に一度は多摩川の川遊び(お座敷で川魚を食べたり)をして、
多摩川の対岸の稲城で梨を買って食べるのを楽しみにしていたようです。

多摩川もだいぶきれいになってアユなどの川魚も戻ってきているようですが、
いつか昔のようなお座敷での川遊びができるようになるのでしょうか?

梨のほうは、今でも稲城市の住宅街の中に小さい農園がたくさん残っています。
稲城の梨は、スーパー等では販売していなく、
各農園の横などにある小さな直売所でしか購入できないようです。
梨以外にはブドウが多く、果物狩りをやらせてくれるところもあります。

JA東京みなみのサイト(ココ)の右下にある「稲城の梨」のリンク先で、
たくさんある小さな小屋のような直売所の場所を調べることができます。
(私も買って食べたことがありますがおいしいですよ♪)
梨の品種もいくつかあり、毎年おなじみの直売所で購入している人も多いようです。

稲城では特産の梨を使った梨ワインや梨のスイーツなども地元の店で作られています♪
都心からも近く温泉もありますので、
今年の秋の一日、予定を立てて、日帰り稲城梨ツアーなどいかがですか♪
読売ランドも一応あります。

去年の冬、稲城市の新しいキャラクター作られました。
「タイムボカンシリーズ」「ガンダム」などのメカデザインを担当した
稲城市在住の大河原邦男さんのデザインです。
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稲城なしのすけ(いなぎなしのすけ)、稲城の梨にちなんで梨型ロボ?です♪
写真の像は、JR南武線の矢野口駅前ロータリーで見ることができます。

稲城市は開発が進んで、いまだに成長している感じがしますが、
あんまり開発が進みすぎると良さが失われるかも?
人口が減少していく将来に向けての開発に、そろそろ切り替える時期かも?
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